リスキリング事例

property technologiesのリスキリング施策~中途採用なら4、5年かかるエンジニア調達を半年のリスキリングで実現した方法とは?~

業種:
不動産
従業員数:
300~499人
取得スキル・育成職種
対象社員が望む業務領域のスキル
受講者・対象者
全社員
公開日:2023.10.12 更新日:2023.10.27

property technologiesのリスキリング施策                  ~中途採用なら4、5年かかるエンジニア調達を半年のリスキリングで実現した方法とは?~

「リアル(住まい)×テクノロジー」を通じて、中古住宅再生を中心とした住宅市場の活性化を目指す、株式会社property technologies(以下プロパティ・テクノロジーズ)。2020年の設立以来、「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来を創造するために、住宅関連子会社及びグループ各社に対するテクノロジーソリューションを提供しています。AI査定機能搭載プラットフォーム「KAITRY(カイトリー)」を通じた中古住宅の買い取り、リノベーション済の中古住宅・戸建住宅の販売は毎年成長を続け、社員数は連結で387名(2023年5月末時点)、2022年のグループ売上高は387億円に達しました。ITリテラシーが必要な同社では、異なるキャリアの掛け算によるリスキリング環境を整え、社員の価値創造の場を作っています。
Prop Tech戦略部長(CTO)の金子 健哉(かねこ けんや)さん、経営企画部主任の山口 和之(やまぐち かずゆき)さんに施策の詳細について伺いました。

取材対象者

金子 健哉

株式会社 property technologies   Prop Tech 戦略部   戦略部長(CTO)

テックチームの立ち上げから始め、CTOとしてエンジニアを統括。プラットフォーム開発やシステム開発、プロダクト開発全般を指揮する。

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山口 和之

株式会社 property technologies  経営企画部  主任

営業職から経営企画部へ異動後、当社グループの予算策定や市場調査・データ分析を担当。

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「不動産 × テクノロジー」領域で社内人材のリスキリングを活用


ーー人材育成施策の概要について教えてください。


山口:弊社ではキャリアチェンジの希望者に対し、全社でサポートを行っています。社員が自ら手を挙げて、希望職種に転換できる人材育成施策です。部門・職種を越えた人材の流動化とリスキリングによって新たなタレント発掘や価値創出を行っています。


ーー取得スキル、育成職種や育成対象者について教えてください。


山口:対象は全社員で、各対象者への教育は各部門が担っています。特定の部門や職種に限らないことで、エンジニアだけでなく、営業事務の社員が営業や施工といった職種にキャリアチェンジするケースや地方拠点から本社への異動などもあり、様々な部門・職種の人材育成を実施しています。


ーー人材育成施策は、経営計画や中期目標とどのように連動しているのでしょうか。


山口:そもそも弊社プロパティ・テクノロジーズは不動産領域でのテクノロジーの活用を目指し、株式移転によりグループ会社である株式会社ホームネット(以下 ホームネット)の完全親会社として設立されました。プロパティ・テクノロジーズの上場にあたり、「人×人」よりも、テクノロジーを活用した「人×テクノロジー」による売上創出の方が、これまでとは違った角度で会社がさらに成長していけるだろうと。こうして約3年前からAI査定搭載プラットフォーム「KAITRY」のサービス開発が始まりました。会社として、リアル×テクノロジーの活用を目指す中で、エンジニアの確保や全社的なITリテラシーの教育が必要となり、人材育成の施策に至りました。


(写真:山口 和之さん)


ーーリスキリング施策実施の背景について教えてください。


金子:不動産テックの領域への進出に際して、エンジニアの確保が必要不可欠でした。方法としては、①外注、②中途採用、③社内公募による育成の3つがありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。外注では競合他社に真似されにくい優位性(開発内容)が社内に残らない、中途採用は応募者の人柄や会社との相性など不明確、といったデメリットがあります。実際に中途採用はマッチングが非常に難しい。一方、社内人材は、会社に対する理解度が深く、人柄もわかっています。外注や中途採用を併用しながら人材育成に取り組める点がリスキリング施策の大きなメリットでした。


山口:私自身、営業職として入社し、支店のデータ管理や取りまとめを行っていました。その後、全社的な仕事に関わりたいという希望があり、データ管理のキャリアをきっかけにエンジニア兼事務職へ職種転換し、経営企画部に異動しました。異動後は、金子と共に「KAITRY」のシステムの要件定義(必要な機能や要求を分かりやすくまとめるディレクション業務)に携わり、テクノロジーに関してリスキリングをしながら、不動産とテクノロジーを融合した不動産テックの領域で経験を積んでいます。

現場主導の面談&OJTで進めるボトムアップのリスキリング


ーー施策の詳細について具体的に教えてください。


山口:希望者は、社内に希望する職種があれば、手を挙げてキャリア変更の要望を出すことができます。これはトップダウンではなく、ボトムアップの人材育成となっています。弊社では半年に一度、必ず上長と面談があるため、希望者はそこで手を挙げることができます。部署によっては月に1度行う部署もあります。


金子:また、面談は1on1で行います。部下は今後のキャリアや仕事上の悩みを上長と話す場があります。上長は部下のやってみたい仕事や希望を聞き、該当部門にコンタクトを取ります。例えば「クリエイティブデザインをやってみたい」というメンバーがいたら、該当部門の部門長に意向を確認し調整します。異動先の受け入れ状況にもよりますが、問題がなければ育成施策が開始されます。


(写真:金子 健哉さん)


ーー育成施策の期間は?

金子:形態にもよりますが、当初は元の所属部門の兼務から始め、段々と比重を異動先に移していきます。例えば、最初の頃は週4日を元の部署の仕事、週1日は異動先の部署の仕事にリソースを配分します。時間と共に軸足と投下する時間を異動先に移して行くイメージです。


山口:私の場合、異動先で独り立ちしてメンバーの一員として業務ができる様になったのは約6カ月後でした。


ーー施策の形式について教えてください。


金子:基本は、OJTを行いつつ、細かく面談を重ねます。スキル面を外から見るのと、実際に本人がやってみるのとでは異なる部分があるため、そうした点を丁寧にケアしながら進めていきます。面談とOJTを織り混ぜながら、業務的に独り立ちしていくことをフォローするイメージです。

丁寧で親切なサポートでスキルアップを目指す


ーーメンバーの動機形成の工夫について教えてください。


山口:トップダウンによる異動ではなく「自分はこんな仕事をやってみたい」と手を挙げることから始まる点が一番良いところだと思います。そもそも弊社にはトップダウンの組織文化よりも、チャレンジしたい人がチャレンジし、周りがそれを助け合うカルチャーがあります。


弊社は不動産事業を展開しているため、宅建士の資格支援は積極的に行っていることはもちろん、建築に携わる資格や事務系資格の支援も積極的に行っています。さらに、不動産テックの第一人者である取締役の清水教授による社内講義を設け、魅力的なリスキリング機会を提供することで、メンバーの動機形成につながっていると感じています。


ーー施策実施の環境整備面の工夫はいかがでしょうか。


金子:エンジニアとデザイナーの育成についてはOJTの際に教育担当をつけ、疑問が生じた際の質問先を明確にしています。遠隔地の社員を育成する際はリモートで対応し、同じオフィス内の場合は隣席で丁寧に教えています。


エンジニアやデザイナーの仕事は、社内やお客様の要望に対して要件定義の一覧があります。異動してきたメンバーに対しては要件定義の難易度に応じてタスクを割り振り、段階的なスキルアップを図ります。スキル面だけでなく、エンジニアとしての課題解決の方法も早期に習得してもらう様にしています。

4、5年かかる人材確保が6ヶ月で完了


ーーKPIや評価指標はありますか。


金子:不動産業界はもともと人材の流動性が高く、他の業界に比べ離職率が高くなっています。明確なKPIはありませんが、離職率を評価指標として考えた場合、人材育成施策が離職率の低下に貢献していると思います。不動産以外のスキルをリスキリングできるメリットは採用時の面接でもアピールしています。


ーー人材育成施策で得られた定量面、定性面の成果について教えてください。


山口:定量面では数値化したデータはありませんが、従来細かいところまで外注していたシステムの内製化率が増えました。


人材育成の施策については3年間で10人以上が利用しています。例えば営業担当が施工部門に異動したり、営業事務の社員が営業になったり、テクノロジー以外の職務でも施策が活用されたことで、社内人材の有効利用が実現しました。


金子:定性面ですが、外部のエンジニア採用に対して、リスキリングによる人材育成は極めてコストパフォーマンスが良いと思います。中途採用の希望者50人を面接しても、弊社の要件にマッチングする人材は極めて少ない。加えて、即戦力化のためには上流部分(事業内容の把握はもちろん、社内データの整理からサービス企画・設計をする業務)が非常に重要になります。中途採用の方がこれをできるようになるまでには、4〜5年を要すると思っています。先述の通り、社内人材をリスキリングした山口は、営業やデータ管理業務の経験が活かされ、約6カ月と非常に短期間で上流部分を任せられるまでになりました。会社の方針を理解し業務に精通している社内人材に、新たなスキルが付加されるリスキリングは、極めて有効な方法だと思います。

プログラミングなど、実際に開発の面で手を動かす業務だと、さすがに半年で習得し活躍することは難しいと思いますが、希望してくれる方がいれば長期プログラムとして制度を作っていけたらと思っております。